2015/01/06

toyogeki works.その一

2012年3月に閉館となった豊岡の映画館「豊劇」の内装デザインの仕事をいただきました。



ん?カバン屋だよね?なんで?

いまだ良くわかりませんが、自店デコンプ ラボラトリーの店作りをほぼハンドメイドしたことや古いものいじってたりするのを見ていただいてたのかと思います。

少々長い‥‥いやめっちゃ長いご報告、解説となりますがご興味がございましたら見てやって下さい。


おわりのはじまり

物心ついた頃、当地には映画館が4館ありました。
時は流れて最後に残った豊岡劇場は但馬地方に住む多くの人に愛されて来た映画館で、ここにまつわるなにかしらの思い出が地元のみなさんにあると思います。

時代の変遷とか文化遺産とかの話は他でいっぱい語られているので割愛。
無くなってしまうものにはいろんな理由があります。



                  息子と観に行った豊劇最後の映画「三丁目の夕陽」はなにやら象徴的でもありました。



2012年3月何も出来ないかもしれないけど、何か出来る事があるかもしれない。何もしないと駐車場になっちゃう。
閉館されると話を聞きアクティブな朝来市の建築士松本智翔氏(朝来市竹田「竹田劇場」主宰)に引きずられて当時の館主山崎浩作さんに会いに行きました。
と、すでに動いてる方がいらっしゃる事、単発だけどイベントが計画されている事など静かに優しく語っていただきました。
しかし、その一週間後まさかの山崎氏の急逝。終わったと思いました。



年が変わって2013年11月現オーナーの石橋秀彦氏に誘われて豊劇に‥‥
石橋氏が本気で取得を考えられている事、運営の夢を語られてこのあと数回お話する機会がありましたが、まさか新生オープンまで関わって行く事になるとは‥‥


2013/11/23


じわじわはまって行く。


映画を根幹にクリエイターとアーティストの発信基地に。
カタカナ英語?ってなんか嫌いで薄っぺらい感じなんだけど言ってる事はわかる。
けど、そんな思惑どおりに人って集まる?
その頃の素直な感想。
が、これが空間作りの目的となります。
カフェバーであり、通路であり、イベントの場であり、クリエイションの生まれるところ。
利用者の年齢層の厚さ(子供からお年寄りまで)
営業時間の長さと利用目的の交錯(日中カフェ 映画 小ホールイベント ロビーを使ったワークショップ 夜間バー)
そして忘れてならないのは映画館であるということです。
頭が痛くなってくる設定ですが答えは必然の積み重ねで出来上がると思っていました。

やるべき事はカバンを作るのと同じ。持つ人のために‥‥
目指すのは集う人が居て生きる空間です。


                                                             勝手にパース。

この頃の関わりが記憶にないけどこんなん作ってました。
まず勝手にイメージして行く事から始まります。

中空に伸びるハシゴを上る光る男(アート的な象徴)
CINEMACTION(映画館としてありながら新しい何かを生み出す活動する場所としての意で考えました。)
鉄線のサイン
外装の着色、手をつけない部分
言葉だと伝わりにくい事を絵にすると次のイメージに繋がって行く。
実行可能かどうか必要か否かの検討材料。


8月に正式にオファーいただく事になるのですが、最終的にここまで関わる事になるとは石橋氏も僕も思ってなかったはず。
ここから実現に向けて思考錯誤して行く訳です。未体験ゾーンに突入。


前職を含め自分(現カバン屋)が関わり続ける環境の仕組み作りは経験していますが今回は第三者のシロート。
どこまで入り込めるか想像力が頼りです。


本来映画館のロビーで通路。ヨコに長~い空間。
改めて現場を見ると難易度の高さを感じました。
ロビーには巨大な柱が数本ありスペースを分断、まとまった広いスペースはあまりありません。
逆に面白いとも言えます。
ロビーの主題は階段と大ホールへの扉、高い天井
問題は素敵と言えない汚れた壁面とその質感‥‥




「なにもしない」選択肢もありましたが「新しく生まれ変わったんだ」とアピールする意味で壁面のリペイントは必然だったと思います。
今から思えば最初のハードルが壁面の色だったかもしれません。
パソコンでいろいろシミュレーションしましたがたいして役には立たず、候補色のサンプルペイントを協議検討してわずかに黄身のある白に決まりました。
以降プロジェクトチーム、石橋氏 未来子さん 伊木君と連携して進行して行きます。




ここで国内各地にゲストハウスをデザイン(デザインだけにとどまらず自ら手を動かし施工まで)されている
メジカラハウス東野唯史氏登場。バーカウンターの位置設定をアドバイスいただけて、その後の構築の起点になっていきます。
2014/09/16

壁の塗色、カウンターの位置が決まったことで大きく前進。
豊劇のロビーはそれ自体舞台として出来上がっているので何を残して何をどう配置するか、どう配光するか、だけです。




ある日、未来子さんに「石橋氏の夢は大きな本棚をはしごをかけて上って見ること」と聞いたので大壁面めいっぱい使った本棚を提案しました。
キャットウォークのような通路のある本棚。下は4席x2のボックス席になります。
結果は構造、安全性、コスト、法律の問題で残念ながら断念。
本棚は現状の位置に再設定しました。

               本棚には資料、大きなテーブルを囲んで、あるグループがなにやら画策。ってイメージします。


大きな本棚がボツになり大壁面が贅沢に使えるようになったので、探したのは映画館につきものの手書き看板‥‥しかもデカイの。
ない。ありません。映写室にはかなり古いお宝が埋もれてましたが、看板類でやっほー!なブツは残されてませんでした。
割れててもやつれてても半分くらい残ってたらそいつを壁面にドーンと架けるだけで絵になるだろうって妄想は消えました。

変わりに思いついたのはあっさりポスターフレームを架ける。です。
中のポスターは意味のあるものでなくてはなりません。
選んだのは豊劇創業の年、1927年にドイツで公開された「METROPOLIS」です。
デザインマネージメントの未来子さんとの共通認識として新しい空間に、ある種工業的テイストを入れて行こうとしていたので、コレしかないってチョイスです。
もう一枚は石橋氏に選んでいただきました。北アイルランドに長く暮らされていた経歴から「The Commitments」です。登場人物の集合写真。手のサインはアブナいやつです。
(逆ピースサインで検索)オーナーの反骨の現れですね(笑)
どちらもすごく面白くて好きな映画です。特にメトロポリスは工業系好きにはおすすめしますw

劇場ドア横の大きな告知パネルは旧豊劇で掲示板に使われていたものをリペイントして縦に設置していただきました。




ここから順番は前後しますが物品の調達、制作について書いていきます。


イスはあるものを使おう
一度はボツになった映画館イスの再利用。
再利用と言っても貴重なイスを改造せねばなりません。
大きいテーブルでの使用を提案していましたがあえなくボツ。


バーカウンター前に4人がけボックス席2組を設定したので伊木君が再提案してくれました。
密かに2人でシミュレーション。必要なテーブルの高さ、大きさを検討しました。




この提案が採用された事で大きいテーブルとバーカウンター前の座席のイス、計14席分のイスがコストカット出来ました。
なおかつ豊劇ならではの演出が出来たのではないでしょうか?
劇場イスの使用についてはイレギュラーなので「お客さんを戸惑わすかも‥‥」「ま、えーんじゃね~www」なんてのが伊木君との会話。

そうそう、大きいテーブルの座席も旧豊劇の遺産です。
色が飛んで元がどんな色だったのか不明なほど。
シブい!というより打ち身色です‥‥
なのでリペイントする事にしました。
今は良い塗料があって素材感もそのままです。
赤、黒重ねて深い色を出そうと目論みますが‥‥ま、黒だけで良かったよねwww
(も少しコストダウン出来たな m(_ _)m)




作る喜び

 そこから泥沼にはまりつつ嬉しかったのはテーブルを作らなくてはならなくなった事でした。
照明器具等かなり凝ったつもりですが所詮他人のプロダクト、ないものを作るのはホント楽しい!
クリエーター集めたかったら率先しなくちゃね。

豊劇で使われていたイスも劇場イスも高さがラウンジとリビングの間!
カウンターとボックス席との距離の制約。
大きいテーブルもサイズの制約。
既製品ではなかなか見つからないサイズです。というかナイ!
テーブルに関してはポン付けでサイズは妥協って考えられません。
しかも大きなテーブルはちゃちなものでもいいお値段します。

で、大テーブル、小テーブルをデザイン設計、施工させていただきました。
例えばリビングテーブルを考えるのはかなり楽です。高さがあるだけに構造に自由度があります。
脚を入れない低いラウンジテーブルも楽です。
この場合イスの高さが基準になるので、スペースを最大限に取るためにも(通常6人がけ、最大8人がけ)テーブルの脚は四隅でふんばってくれなくてはなりません。
さらに天板までの高さとイスの高さから天板四辺を板一枚の厚さで上げなければなりません。
苦しい楽しい設計‥‥


このデザイン設計については先生がいます。尊敬する先生のフォルムを少し真似出来たのは密かな喜びでした。
1984年には亡くなっていますが、先生の名前を当てられた方は豊劇で一杯おごりますよ~。先着3名(笑)





小さいテーブルも制約がつきまといます。
劇場イスのサイズ、構造から出入りと着座の動作に必要な空間が要ります。
それに、その場に似合ったデザインとして考えました。



いずれのテーブルも板材はラワン合板です。塗装は苦労するかな、と予想しましたがけんじんリフォーム中川さんに目の綺麗なものを調達していただいたので助かりました。
懐かしいようなレトロな感じが出る素材だと思います。
板の塗装は当初、柿渋と油仕上げにする予定でしたが、寸前で耐久性と汚れの懸念からステイン、ウレタンにしました。
ステインには柿渋が仕込んであるので経年良い灼け色が付くと期待しています。(ウレタンが阻むかも?)



 レトロホールと勝手に呼んでいる2階上がり口周辺のホールにはデザインマネージャーの未来子さんから折りたたみテーブルをと要望が出ました。



 既製品を探索‥‥
工業系の無骨な40kgもあるもの、ミリタリーもの、魅力的なテーブルを発見しましたが価格、大きさが合いません。
また口走ってしまいます。
作ろうかっ!(脳裏に頭を抱えてる自分がいました)
もうオリジナルを考える時間はありません。
自分でも所有している米軍のフォールディングテーブル(現物は希少になってきてめちゃ高価!)をパクらせていただきました。
ただしサイズがオリジナルとは違うので、結局再設計みたいになりました。構造は模倣なので楽!


                                                    ただネジ寸法や数出すのはメンドかったよ




 全てのテーブルに足先が細くなってるってモチーフを共通させた‥‥って誰も分からんよねwww
全テーブルの塗装組み立てを伊木君未来子さんと三人ですることになり作業に没入して行きます。


カウンター周辺
バーのボトルが並ぶ棚のブラケットもありふれたステンレスプレス製ですがその先細りフォルムで提案。
ネイビーの壁色に映えるかなと‥‥ほとんど見えないねwww





これもほとんどわからないポイントですが伊木君ががんばりました。

バーカウンター内の収納には事務用スチールキャビネット。
スチール家具は塗装剥離して鉄生地にしたらいい雰囲気出ます。
過去何度かしていましたので「それ、やったらどうかいね?」と軽~く提案しました。
遠回りの好きな伊木君が乗ってきたので内心「大変かも‥‥」
実際、誤算は施工時期でした。自分がしたのはいずれも暑い時期。
今回は真冬‥‥気温5度!
いつもの手順で始めるも剥離材が一向に反応せず、伊木君が根性で一台仕上げました。
残り3台は伊木君がいつの日か手塩にかけて仕上げる事でしょう。

                                    写ってない!(>_< )



石橋氏考案のコンクリートカウンター。


鉄板の胴巻きに木をはさんで暖かさを残してます。
ここは僕担当ではないのですが施工が出来たのを見て???
段差があります。その差5mm!


ここはツラ合わせだったよなぁ‥‥さわると違和感あるだろうなぁ‥‥
木ネジ留めなので5mm差を修正は直らんやろなぁ‥‥
と「職人異議申し立て係」の未来子さんが見事にクリア!職人仕事もナイスです。


ここのネジには難儀しました。
「鉄板どう留めますか?」って問いに「ほらマイナスネジでっしゃろ‥‥」と軽~くお返事。

石橋氏地元の古くからある工具屋さんへ探索‥‥
これがネット徘徊地獄の一つになりました。
ありませんやんマイナスネジ‥‥しかも仕様から頭径一緒で長さ違いなんて‥‥
もう六画でもトルクスでもプラスでもえーやんって思い始めた時に伊木君。
「マイナスネジしか考えられませんねっ」(爆)
結局なんとかなるって事で同じ長さのマイナスネジで完了。やれやれ。
そのこだわったマイナスネジですが、後の「段付き直し」の職人さんのご配慮で(!)一本だけ
プラスネジに変わっています。(予備はあったはずですがあえてプラスを残してあると思いますよ)
ネイビーをバックにクール、モダンに振れて来たカウンター周りですが後述の照明と合わせていいムード出てませんか?

                                              鉄部、木部には柿渋、油

 「その二」につづく

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